はじめに
「日本の平均年収はここ数年で上がっているのか、下がっているのか?」——転職やキャリアプランを考える上で、賃金の推移を把握することは非常に重要です。
直近の賃金動向を知ることで、「今は転職に有利な時期なのか」「自分の業界は賃上げの波に乗れているのか」といった判断ができるようになります。
この記事では、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を中心とした公的データに基づき、過去10年(2015年〜2024年)の平均年収・賃金の推移を、男女別・年齢別・産業別に徹底解説します。
平均年収の推移(過去10年)
まず、2015年から2024年までの平均月額賃金(一般労働者・男女計)の推移を確認しましょう。
| 年 | 平均月額賃金(男女計) | 前年比 |
|---|---|---|
| 2015年 | 304,000円 | - |
| 2016年 | 304,000円 | +0.0% |
| 2017年 | 304,300円 | +0.1% |
| 2018年 | 306,200円 | +0.6% |
| 2019年 | 307,700円 | +0.5% |
| 2020年 | 307,700円 | +0.0% |
| 2021年 | 307,400円 | -0.1% |
| 2022年 | 311,800円 | +1.4% |
| 2023年 | 318,300円 | +2.1% |
| 2024年 | 330,400円 | +3.8% |
注目ポイント
2024年の前年比+3.8%は、1991年(平成3年)以来33年ぶりの高い伸び率です。2015年〜2021年は年0〜0.6%程度の微増にとどまっていましたが、2022年以降は明確な上昇トレンドに転じました。人手不足の深刻化と春闘での大幅賃上げが背景にあります。
10年間で見ると、平均月額賃金は304,000円から330,400円へと約26,400円(+8.7%)上昇しました。ただし、上昇の大部分はここ2〜3年に集中しており、2015年〜2021年の7年間はほぼ横ばいだったことがわかります。
出典
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」各年版(2015年〜2024年)より作成
※一般労働者(常用労働者のうち短時間労働者を除く)の「きまって支給する現金給与額」
男女別の賃金推移
賃金推移を男女別に見ると、女性の伸び率が男性を上回り、男女格差は縮小傾向にあります。
| 年 | 男性 | 女性 | 男女賃金格差 (男性=100) |
|---|---|---|---|
| 2015年 | 335,100円 | 242,000円 | 72.2 |
| 2016年 | 335,200円 | 244,600円 | 73.0 |
| 2017年 | 335,500円 | 246,100円 | 73.4 |
| 2018年 | 337,600円 | 247,500円 | 73.3 |
| 2019年 | 338,000円 | 251,000円 | 74.3 |
| 2020年 | 338,800円 | 251,800円 | 74.3 |
| 2021年 | 337,200円 | 253,600円 | 75.2 |
| 2022年 | 342,000円 | 258,900円 | 75.7 |
| 2023年 | 350,900円 | 262,600円 | 74.8 |
| 2024年 | 363,100円 | 275,300円 | 75.8 |
男女格差は縮小傾向
女性の賃金水準(男性=100)は、2015年の72.2から2024年の75.8へと改善しています。2024年の伸び率は男性+3.5%に対し女性+4.8%と、女性の方が高い伸びを示しました。女性管理職の増加や同一労働同一賃金の推進が背景にあります。
ただし、男性を100とした場合の女性の賃金水準は75.8にとどまっており、先進国の中ではまだ格差が大きい水準です。OECD平均(約88)と比較すると、日本はまだ改善の余地があります。
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年齢別の賃金推移
賃金の伸び方は年齢層によって異なります。2020年と2024年を比較して、年齢別の変化を見てみましょう。
| 年齢層 | 2020年(月額) | 2024年(月額) | 伸び率 |
|---|---|---|---|
| 20代(20〜29歳) | 227,200円 | 248,500円 | +9.4% |
| 30代(30〜39歳) | 289,200円 | 308,600円 | +6.7% |
| 40代(40〜49歳) | 334,800円 | 352,100円 | +5.2% |
| 50代(50〜59歳) | 366,200円 | 381,500円 | +4.2% |
若年層の伸び率が高い
20代の伸び率(+9.4%)は50代(+4.2%)の2倍以上となっています。企業の初任給引き上げ競争や、若手人材の獲得競争が激化していることが大きな要因です。2024年の大卒初任給は多くの大手企業で30万円超えが相次ぎ、過去最高水準を更新しています。
年功序列型の賃金カーブは緩やかになりつつあり、若年層の処遇改善が進んでいます。一方で、40代・50代の伸び率は相対的に低く、「年齢が上がれば自動的に年収が上がる」という時代は変わりつつあります。
産業別の賃金推移
賃金の推移は産業によっても大きく異なります。主要産業の2020年・2024年の月額賃金を比較しました。
| 産業 | 2020年(月額) | 2024年(月額) | 伸び率 |
|---|---|---|---|
| 情報通信業(IT) | 366,500円 | 397,800円 | +8.5% |
| 製造業 | 312,300円 | 332,800円 | +6.6% |
| 金融業・保険業 | 378,100円 | 399,200円 | +5.6% |
| 医療・福祉 | 295,800円 | 313,900円 | +6.1% |
| 宿泊・飲食サービス業 | 225,600円 | 249,400円 | +10.5% |
産業別に見ると、宿泊・飲食サービス業の伸び率(+10.5%)が最も高くなっています。コロナ禍で大きく落ち込んだ反動に加え、深刻な人手不足による賃上げ圧力が背景にあります。
情報通信業(IT)は依然として高い賃金水準を維持しつつ、+8.5%の高い伸びを示しています。DX推進によるIT人材の需要拡大が、賃金上昇を牽引しています。
一方で、産業間の賃金格差は依然として大きく、最高水準の金融業(399,200円)と宿泊・飲食サービス業(249,400円)では月額で約15万円の差があります。
出典
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」各年版より作成
※産業大分類別・一般労働者の月額賃金
物価上昇と実質賃金
賃金の推移を正しく評価するには、物価上昇(インフレ)を考慮した「実質賃金」の観点が欠かせません。
名目賃金と実質賃金の違い
- 名目賃金:額面上の賃金額。2024年は前年比+3.8%
- 実質賃金:物価上昇分を差し引いた購買力ベースの賃金
2024年の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比+2.7%(総合)でした。名目賃金の伸び率+3.8%から物価上昇率+2.7%を差し引くと、実質的な賃金の伸びは約+1.1%となります。
実質賃金のポイント
2022年〜2023年は名目賃金が上昇しても物価上昇率がそれを上回り、実質賃金はマイナスが続いていました。2024年後半にようやく名目賃金の伸びが物価上昇を上回り、実質賃金がプラスに転じる月が増えてきています。これは2年ぶりの改善傾向です。
つまり、「額面の年収は上がっているのに、生活が楽になった実感がない」というのは正しい感覚です。実質的な購買力で見ると、2024年にようやく回復基調に入った段階であり、2022年以前の水準にはまだ戻っていません。
| 年 | 名目賃金伸び率 | 消費者物価上昇率 | 実質賃金(概算) |
|---|---|---|---|
| 2021年 | -0.1% | -0.2% | +0.1% |
| 2022年 | +1.4% | +2.5% | -1.1% |
| 2023年 | +2.1% | +3.2% | -1.1% |
| 2024年 | +3.8% | +2.7% | +1.1% |
出典
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」各年版 / 総務省「消費者物価指数」各年版より作成
今後の見通し
2025年以降の賃金動向はどうなるのでしょうか。主なポイントを整理します。
2025年春闘の動向
2025年の春闘(春季労使交渉)では、連合(日本労働組合総連合会)がベースアップ含め5%以上の賃上げを要求しています。大手企業を中心に、2024年を上回る賃上げ回答が相次いでおり、賃上げの流れはさらに加速する見込みです。
賃上げトレンドの持続性
- 人手不足の深刻化:少子高齢化による労働力不足は構造的な問題であり、人材確保のための賃上げ圧力は今後も続く見通し
- 最低賃金の引き上げ:政府は2030年代半ばまでに全国加重平均1,500円を目標としており、底上げ効果が期待される
- ジョブ型雇用の拡大:成果・スキルベースの処遇制度が広がることで、専門性の高い人材ほど賃金が上がりやすくなる
- 物価動向:物価上昇が落ち着けば、実質賃金の改善ペースが加速する可能性がある
転職を考える方への示唆
賃上げトレンドが続く中、転職市場にも追い風が吹いています。特に以下のポイントを押さえておくことが重要です。
- 賃上げに積極的な企業・業界を見極める(IT、製造業は高い伸び率)
- 若年層ほど転職による年収アップの効果が大きい
- 「名目年収」だけでなく、福利厚生や実質的な待遇改善も比較する
- 自分のスキル・経験の市場価値を客観的に把握してから転職活動を始める
転職のタイミング
企業が積極的に賃上げを行っている今のタイミングは、転職で年収アップを実現しやすい時期と言えます。ただし、「賃上げ=自分の年収が上がる」とは限りません。自分の市場価値を正しく把握した上で、戦略的に転職活動を進めることが大切です。
まとめ
過去10年間の賃金推移データから、以下の傾向が明らかになりました。
- 2015年〜2021年はほぼ横ばいで推移し、2022年以降に明確な上昇トレンドに転換
- 2024年の賃金上昇率+3.8%は33年ぶりの高水準
- 男女格差は縮小傾向にあるものの、依然として開きがある
- 若年層の賃金伸び率が最も高く、初任給引き上げ競争が活発
- 産業間の賃金格差は大きく、IT・金融が高水準を維持
- 実質賃金は2024年にようやくプラスに転じた段階
- 2025年以降も賃上げトレンドは継続する見通し
賃金データは転職活動における重要な判断材料です。「平均」の数字だけにとらわれず、自分の年齢・業界・スキルに照らして現在の立ち位置を確認し、今後のキャリアプランに活かしましょう。